平成7年クリーニングハウス ムウをオープンした。
家と店舗を全部建て替え、機械設備も充実させた。
そして、外交主体だったのを店頭受付主体に切り替えた。
オープンした頃は、まだ当然のようにドライだった。
ムウをオープンして2年ほど経ったある日、クリーニング新聞に「世界的に脱ドライが叫ばれている」とあるのを目にした。
私はそれをみてハッとした。なぜかそのわずか一行の文字に頭を殴られたような衝撃が走った。
ドライは、石油や有機塩素系の化学物質で衣類を洗う。
人体にも環境にも悪影響を及ぼすのだ。それに加えて、食べこぼしや汗、ホコリなど、水溶性の汚れはドライ液の中に溶けださない。生活する上での汚れの九十パーセントが水溶性の汚れであるにも関わらず、ドライでは全くと言っていいほど落ちない。
クリーニング業界が世界的にドライから脱却できない理由は、主に3つある。
一つは、生産性の問題だ。
ドライは皴もなく型崩れもなく洗い上がるので、ほとんどアイロン仕上げが必要ない。
二つ目は、料金設定が難しいという事だ。
つまり、ドライを止めて水洗いに切り替えると何倍もの手間暇とコストがかかる。それにみあった値上げが出来無いという事が大きな要因の一つになっている。
三つ目は、技術的な問題だ。
水洗いの経験がない為と、利益率の問題などから真剣に水洗いに取り組むクリーニング師が少ない為、技術の向上がなされない。
そんな中、平成8年にドライ機を捨て、全品水洗いクリーニングに切り替えることを決意した。
その理由は3つある。
一つは環境を考えて。
二つ目は、お客様へ安心・安全のご提供。
三つ目は、自分の生き方の問題であった。
ドライは、衣類を危険な化学物質漬けにし、汚れは取れないままでお客様の元へ返される。
これに対してお客様はたとえ百円でも支払う意味があるのだろうか?と疑問をもった。
もちろん自分のスーツは水で手洗いしていた。本当の高級クリーニングとは、水できちんと汚れを落とし手洗い手仕上げするという事なのだ。
店を建て替え設備投資もしていた為、当然、多額の返済が毎月追っかけてきた。
子供たちはまだ小学生で、どうすればいいのか途方に暮れてしまった。
しかし、ドライは高級ですとうたって、自分を騙し、いくら生活を支えるためだとは言っても、どこまで続けていけるのだろうか・・・と随分悩んだ。
「お客様の生命をお守りする事が、真のサービスではないのか」と自問自答する日々。
「ドライを止めることは、廃業を意味するんだよ」と言う同業者の声が頭の中でグルグルと回っていた。